※ ネ タ バ レ 注 意 ※
私にしては珍しく、原作小説を読んでいた数少ない映画でして、もともと本なんてモノは時代物かノンフィクションしか読まないタチの人間としては、”架空のストーリー”ってちょっと読みづらいんですけど、悪人は映画のシナリオを読んでいるような構成だったので、割と楽に読めました。
でも、内容にはなかなか共感できる部分がなく、特に同性としての光代には全く共感することができなかったんです。ただ、前述した通り、小説そのものが映像を喚起させる書き方だったので、非常に映画向きだな~とは思いました。役者さんの演技や、ロケ地の寂れた情景などがストーリーをデコレーションしてくれるだろうし、そうした視覚的な情報が揃えば理解も深まるかも・・・と。
映像を見た後で思ったことは、結局小説を読んだ後と何ら変わらないな・・・(笑)。それは、映画が原作にとても忠実に撮られていて、加えて、原作を読んでいる時に脳内に広がっていた風景が、ほぼそのままの形で映像化されていたこともあると思います。あれだけ、自分の思い描いたイメージに近い映像を見せられたことは、ある意味驚嘆でした。特に祐一が光代に殺人を犯した事を告白する呼子の港町の料理屋のシーンは、そのロケーションばかりでなく、妻夫木くんのセリフ回しといい、深っちゃんのリアクションといい、すべてが自分の脳内イメージ通りで、思わず「せんせ、これデジャブっすか?」って訊きたくなるぐらい(笑)。
主人公の祐一と光代以外の登場人物の存在は、異常なほど身近で理解するに易いのですが、いかんせん主人公にだけ心のヒダが揺れなかったのは、これまたレアケースかも。
果たして、祐一のような人生を送っている人間が今の世の中にどれほどいるのだろうか?と思うと、私が東京という大都会に住んでいるからなのかもしれませんが、なんか恐ろしく現実味がないようにも思えるんです。彼ほど全てにおいて”受け身”な若者って信ぴょう性があるのかな~って。それでも、まだ、百歩譲って祐一は同情するに値しますけど。とは言うものの、彼の生活がどんなに閉塞していようと、どんな過去や理由があったにせよ、やっぱり人を殺してしまうことは許されないんですよね。・・・誘導されるように犯した殺人。こんな哀しい犯罪があるものだろうかと、特にあの佳乃のBITCHぶりを思うと、本当にやり切れないです。タマゴが先か?ニワトリが先か?じゃないですけど、東公園で佳乃が増尾と出会ってさえいなければ、とか、出会ったとしても増尾がドライブに誘わなければ、とか、まるで実際に起こった事件かのように、ついつい考えてしまいます。
祐一と光代が出会うことは、もはや必然だったと思うのですが、その必然を成立させる為には、「殺人」という、もう一つの必然が必要だったんですよね~、きっと。二人の出会いは、甚大なる負のエネルギーの渦の中に生まれた、たったひとつの正の因子とでもいいましょうか。
でも、冷静になって考えれば考えるほど、私は同じ女性として光代は傲慢としか思えないんです。本当に祐一のことを思うのなら、刹那の時を共有したいという破滅的な思考は捨てて出頭させるべきだと。ここが小説の最も劇的なる部分なんだってことは理解していますが・・・。だって、現にラストでは、祐一は愛する光代の首を絞めることで、自分を断ち切らせていますよね。彼女は祐一を待つとまで言ったのに、彼は彼女にそんな惨めな思いをさせたくなかった。自分が本当に悪人なんだと分かれば、光代は踏みとどまらず新しい一歩を踏み出せると考えた末の行動なワケで。ねっ、これが真実の愛というものですよ!。自分を犠牲にして相手のことを想う気持ち。これが光代には感じられないんです。そう思ってしまう私は、世の中の女性を敵に回しているのかしらん??
それにしても、佳乃を演じた満島ひかりちゃんはBITCHを好演していましたね。三瀬峠での祐一とのやりとり、あれは、もうホントに憎いですもん。いるんだよな~、あーいう女!とか思いながら(笑)、こっちのハラワタが煮えそうになりました。祐一が携帯に大事に保存していたセクシーな下着姿(光代は相反して白い下着でしたね)と、柄本明さん演じる父親の思い描くガンバリ屋の娘像とのギャップ。こんなヤツでもあんなに両親に愛されていて、それが胸が詰まるくらい哀しいです。
そして、そのBITCHを文字通り足蹴にした、我らが岡田将生演じる増尾圭吾。いるよね~、こういう中身のない、顔だけ間違ってくっついてる野郎(笑)。しかし、将生目線で語らせて頂くと「告白」のウェルテルが余りにも極悪人だったので、こっちはまだライトだったかな。佳乃を乗せた車中でのイラッとした表情や、潜伏中のカプセルホテルから引っ張り出される時の「おかあーさーん」ってシーンがファンとしてはツボではございましたが。
原作を読んだ時には既に映画化が決定していたので、妻夫木聡くんをイメージしながら読んでいたんですけど、どうしてもしっくりこなかったんです。でも、同時に彼なら絶対にやり切ってくれるんだろうなーという期待もありました。「天地人」でも見事にやってくれたので、彼の芝居に不安を抱くのはやめてました。そして、映画館で予告を見た時に「キターッ!」て思いましたもん。彼にはモントリオールで最優秀女優賞を獲った深っちゃん以上に惜しみない拍手を贈りたいです。
映画の最後、燈台から落陽を見るシーン。
劇中、絶望の中にも唯一晴れやかな表情を見せる祐一の微笑に、彼がこれから迎える未来を想うとやるせない気持ちに包まれます。そして、光代の最後のセリフ同様、祐一は本当に「悪人」だったのかと疑問符を投げかけて映画は終わるのですが、彼を「悪人」だと思って見ていた人はそれほどいないでしょう。
祐一が最後の最後まで守ろうとした光代の将来が、晴れやかであることを祈るばかりです。
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