映画「ノルウェイの森」試写レビュー ※ネタバレ※

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11/23に行われるジャパン・プレミアにも行けることになったのですが、ひと足先に試写を見ているので映画の感想を更新しておきたいと思います。
11/21に嵐コンだけでなく、キリエちゃんの代わりに「七人の侍」に行くことになったので、いろいろレビューが溜まってしまいそうですし・・・。
あっ、「七人の侍」は親切な方にチケットを譲って頂けることになったのですが、本来なら、ただ今米南部に行っているキリエちゃんが行くべきもの。彼女には気がひけますが(喜劇のような悲劇のお話・笑)「わーの代わりにしっかり見て来て!」と使命を託されたので、いざ出陣して参る!
さて、「ノルウェイの森」ネタバレ含みますので、たたみます。
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まず、原作についてですが、もちろん世界的な大ベストセラーであることは知ってましたし、現に私が主人公のワタナベや直子と同じくらいの年齢の頃には、友人はみんな「ノルウェイの森」を読んでいたのも確かです。私はドキュメンタリーにしか興味がない即物的な人間なので、小説というものには全く触手が動かず、ましてや恋愛小説なんて愚の骨頂だと思っていたんです。恋愛は体験するものであって、活字で読むもんじゃねーよ!ってのが持論でしたので(笑)。
で、人生も斜陽に差し掛かったつい昨年になって(苦笑)、松ケンがワタナベを演じると知って初めて読んだわけです。私はこーいう人間なので、原作については特にどうという感想も持たなかったんですが、この作品を支持する人たちが、物語のどんな部分に惹かれるのかは漠然と理解することはできてたと思います。そして、松ケンがワタナベを演じることは、運命の導きにも似たベストマッチングだとも思えました。
映画化が決定してから原作を読むと、当然のことながら、自分勝手にシーンを想像したり、ここはハズせないだろうとか、ここは端折っても差支えないだろう、なんて思いを巡らせて読んだりするものですが、いざ映画を見た時にオープニングから絶句させられたのには驚きました。
小説は、ビジネスマンに成長したワタナベが海外出張に行った際に、飛行機のBGMでビートルズの「ノルウェイの森」を耳にして、封印していた自らのガラス細工のような過去の恋愛が走馬灯のようにフラッシュバックするという印象的なプロローグで始まります。でも、映画ではここは全く描かれておらず・・・。トラン監督によれば「敢えて描かなかった」そうで、それは「この映画を”ノスタルジックなもの”にしたくなかったから」とインタビューで語っていますが、私にはちょっと納得できないんですよね~。ノスタルジックなものにしたくないのなら、時代背景も現代に置き換えて撮ればいいだろうし、個人的には「ノルウェイの森」というフラットな内容の小説において、あのプロローグこそが最もドラマチックであると思っていたので、これには痛く失望しました。
そして、冒頭から高校時代のワタナベ、直子、キズキの関係が映像化されて進んでいくのですが、キズキが自殺する場面を映画ではバカ丁寧に表現してるんです。果たしてそこまで自殺シーンに時間を割く必要があったのだろうか?と、とにかく最初の20分ぐらいで大いにガックリさせられまして(笑)、ハルキストの皆さんはこれをどう受け止めるのだろうか?と。
そんなこんなで、急ぎ足でストーリーは進んでいき、突撃隊のクダリなんかもあっと言う間に過ぎ、何となく違和感と胸がざわざわしたままで、ようやく直子のバースデーの辺りからストーリーが落ち着きだすんです。こっからは、もう、ワタナベと直子にフォーカスされてくるので、観ている方も集中できるようになります。
このバースデーのクダリは、後の二人の関係性(と言うか、キズキも含めた3人の関係性)において、とても重要なのですが、非常に美しい映像でワタナベと直子の絡みのシーンが撮られています。もう、松ケンファンなら思わず溜息つくぐらい美しいんです!!ちなみに絡みのシーンは3回あるんですけど、どのシーンも美しい反面、かなりライトです。安心なのか残念なのかはさて置いて、トラン監督も”(顔の)表情で表現したかった”と言ってる通り、生々しい腰より下の映像はありませんのよ(笑)。
トランの作品を多く見ているわけではないにしろ、彼の感性だとか美意識みたいなものは何となく理解できていて、商業的というよりは彼独自の美意識を具現化することにこだわりのある監督だと思っていて、それは、彼がフランス人であることに加えて、ベトナム系というアジア人のエキゾチックな血を持ち合わせている、いわば絶妙な東西の芸術をブレンドできるナイーブな表現者だからなんですよね。それは、映像にも巧く反映されていて、陰影を強調した映像やキャストの演出については、技巧的過ぎず嫌味でもおしきせがましくもないんですけど、いかんせん原作の切り取り方がこれでいいのかな?っていう根本の問題があるように思えました。ただ、脚本に関しては村上春樹さんがOK出しているんだから、ましてやハルキストでも何でもない私がとやかく言えることではないんですけど、でも、やっぱ何か納得いかないんだよな~。
ミドリの家の物干し場で火事を見る場面・・・これも映画では描かれていません。ここを端折ってしまうなんて残念過ぎる。初めてワタナベとミドリが”男と女”として心を通わせる場面なのにな。ロマンティックに描きたいならキズキの自殺場面よりこっちでしょうよ!と思ってしまいました。
実年齢とはかけ離れていて、松ケンにとっては因縁深い女優さんでもある菊池凛子さんがなんで直子?と当初は思っていたのですが、松ケンが撮影当初から言っていたように、実に繊細で内省的な美しい直子を演じています。いやはや女優は怖いね!永山とハツミに至っては他のキャスティングが思い浮かばないぐらいハマっていました。しかし、この作品、原作者が男性で、メガホン取ってるのも男性だからなのか、女性たちが余りにも儚く、脆く、そして美しい。
もちろん、松ケンの見た目もすこぶる美しいのですが(特に彼の最も美しい「横顔」が、すこぶるビューチフル!)、何といっても今回に関しては”声”の演技というか、セリフ回しが絶妙。淡々とした表情に、淡々とした言い回し。でも、その中に、しっかりとした温かみや怒り、絶望や羨望が含まれていて見事です。
あと、レイディオテッドのジョニー・グリーンウッドの音楽ですが、時折大仰にBGMが映画を支配する場面がありまして、その善し悪しは私には分かりませんが、リズミカルにインターバルを置いてセリフを際立たせているのは耳ざわりが良かったかな。あんまり音楽が侵入する映画ではないので、サウンドよりもむしろ風の音だったり、物音だったり、衣擦れの音だったりという劇中に自然に発生する音の方が印象的かもしれません。
最後に、言うたら「ノルウェイの森」自体が非常に隠避で抑圧的かつフラットな題材なので、”面白い”作品ではないことは確かです。原作やキャストに特に思い入れがなく、芸術性や映像美を必要としない娯楽作品好きな方にはえらく退屈かもしれません。
ただ、私はこれをインディペンデントでなく東宝というマスマーケットで勝負することには非常に興味があります。冷静に考えると、「ノルウェイの森」って、サイズから言えば文字通り大作ですから、やっぱりインディペントでやれるタイトルではないだろうし、かと言って東宝がかける映画としてはトランでいいのか?とか、テーマが地味過ぎると言うか伝えづらいんじゃないかなーとも思えますし・・・。いろんな意味で虎視眈々と業界も見守っている作品でしょうね。
ジャパン・プレミアでもう一度見るので、また新たに発見があったら更新したいと思います。
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