でキリエさんが大絶賛をしておりますが、やはりその通りな映画でした。藤沢周平3部作の中では、最も女性がシンパシーを感じられる作品なのではないでしょうか
それは、木村くんが主演ということも多分にありますが、やっぱり時代物って大抵女性は耐え忍び「自分」を消して尽くすというのが美徳のように描かれることが多いと思うんですが、檀れいさん演じる加世は新之丞のことを子供の頃から慕ってて、その想いが叶って夫婦になり彼を支えているという立派なサクセスストーリーでして、しかも何にしても決断力があるというか腹が据わってて頼もしいんですよ。それが女性として見ていて気持ちがいいですね。離縁を言い渡された時なんか、ホントさっさと出てっちゃうし(笑)。
原作や脚本の素晴らしさもあると思うんですが、やっぱり私には山田洋次監督の演出が一番大きいと思えます。山田監督の作品って芯の太い女性が必ず出てくる気がするし、前述した加世の所作とかセリフ回しなんかは、どことなく寅さんの妹さくらを彷彿としますしね。下町も東北も朴訥とした温かみという点では共通点があるのかなーって。
とにかく、木村くんがここまでやれるとはハッキリ言って全く期待していなかったので驚嘆しています。この分なら心配だった「華麗なる一族」も期待を持って見られそう。
太刀裁きも重厚だったし、訛りも予告で見た時には「ありゃりゃ」と思いましたが、ストーリーをたどっていれば気になりませんでした。そりゃ、やっぱり木村くんらしい独特の間の空け方とか、笑い方とかリアクションなんかもあるにはありますけどね。コミカルな場面も随所にあって、この辺りも山田監督に上手く役者が応えている楽しい瞬間です。
見えないはずなのに、心の底を見透かすように新之丞がカッと目を見張るシーンは、スクリーン越しに見ているこちらまで「ハッ」とさせられます。この時の光の陰陽がまた素晴らしいんですよね。カメラアングルも決して単調ではないし、音楽も全く邪魔しない。淡々とたおやかに進行するストーリーの中で明確に移り変わっていく季節が美しいんです。ほとんどをスタジオセットで撮影したというのが信じられないくらい。
脇を締める配役も適材適所で、脇に徹していると言うか「あー、すんごい人が出てきちゃったな~」って突拍子のなさとか違和感を感じさせなくて、完全に作品に溶け込んでいましたねぇ。この作品に登場する男たちのそれぞれの「武士の一分」が、どんなジェネレーションの方が見ても真っ直ぐに伝わってきて、しかも爽快感もある映画です。
いわゆるベタベタの侍映画ではなく、山田洋次の描くヒューマンドラマですから、時代劇が好きじゃないとか、時代背景(「ご新造」に代表されるような言い回しとか)が良くわからない人でも楽しめるようになってはいます。それでも、キリエさん同様に20代後半以降ぐらいの精神的に円熟した大人の方でないと、この良さはやっぱり伝わらないかなーとも思います。